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高度プロフェッショナルとはどんな人たちか

働き⽅改⾰

2024年08月09日

「働き方改革」と高度プロフェッショナル

プラカルが誕生した背景には、2020年の新型コロナウィルスの感染拡大に伴うリモートワークの急激な普及がありました。それ以前に、既に日本政府はリモートワークに代表される「柔軟な働き方がしやすい環境整備」実現のための法整備と予算措置を行っています。これは、いわゆる「働き方改革」と呼ばれる労働政策の一部です。

「働き方改革」の中には、従来はなかった「高度プロフェッショナル制度」を創設するという内容が含まれています。今回は、この高度プロフェッショナルというのがどういう仕事をする人たちを意味するのかについて触れてみたいと思います。

高度プロフェッショナル制度の概要

「働き方改革」は、以前より存在していた労働関連の法律にさまざまな改正を加え、日本の労働環境の課題を解決しようとしています。厚生労働省の専用サイト[1]や、首相官邸の『働き方改革の実現』特集サイト[2]には、かなりの量の関連資料が公開されており、もちろん高度プロフェッショナル制度についても、この制度だけを詳細に解説する資料[3]が公開されています。

■高度プロフェッショナル制度の要点

高度プロフェッショナル制度とは、一定の年収要件(年収1075万円)を満たし、高度の専門知識等を有する労働者を対象に、労働時間に基づいた制限を撤廃する制度です。もっと単純化すると、非常に専門的な仕事する高年収の人に対して、休日や健康にキチンと配慮すれば、従来の労働基準法に定められた労働時間規制から除外してもいいよという制度です。

働いた時間で報酬をもらうのではなく、成果や結果のみで報酬を受け取る高年収の専門職についての制度だと考えてもいいでしょう。

実は、いきなり出てきたものではなく、2007年にこれと似た仕組みである「ホワイトカラーエグゼンプション制度」を政府が検討した経緯があります。このときは、バリバリ仕事をする専門家の労働時間規制を単純になくしてしまったら過労死するだろうという懸念などから、法案提出まで至りませんでした。

■この制度で期待されるメリット

高度プロフェッショナル制度のメリットは、休日や健康にも配慮されていることから、生産性の向上、過労の防止、ワーク・ライフ・バランスの実現による離職率低下といった3つのメリットにつながるといわれています。また、労働時間ではなく仕事の成果で賃金が決まるため、労働者がより効率よく最短の時間で成果を上げやすくなるというメリットもあると考えられています。

高度プロフェッショナルといわれる人たち

まずは、どういった業務に従事している人が高度プロフェッショナルなのかを見てみましょう。厚生労働省や内閣府の説明を総合すると、高度プロフェッショナル制度の対象業務は、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められる業務だということです。

■政府が公開している業務

政府のサイトで具体的に書かれている業務をできるだけ簡単に整理してみると、以下の業務になります。

 ● 金融商品の開発業務:高度な金融工学を使うようなもの
 ● ディーリング業務:資産運用の業務や有価証券の取引業務
 ● アナリスト業務:有価証券の市場分析や価値等の分析やそれに基づく助言
 ● コンサルタント業務:顧客事業関する調査・分析とそれに基づく考案や助言
 ● 研究開発業務:新技術、新商品、新サービスの研究開発業務

上記業務に従事していても、職務が明確に定められていることや、そもそも年収が1075万円を超えていることなどが必要な要件です。単にプロフェッショナルというのではなく、「高度プロフェッショナル」と呼ぶからには、それなりにハードルが高いことが伺えます。

■基本的には評価基準が「成果物」の人たち

前述の通り、「労働時間で報酬をもらうのではなく、成果で報酬を受け取る」というのが高度プロフェッショナル制度の基本的な考え方です。弊社のようなICT(情報通信技術)業界でいえば、ITエンジニアや、コンルタントといった職種の一部や、研究開発部門、新規事業開発部門に所属する人たちの一部にも該当する従業員はいます。

要するに、コンサルタント業などの、従来のように時間で区切る働き方が向かない職種の一部が、今回の高度プロフェッショナル制度の対象として選ばれているのです。

例えば顧客の業務システム刷新プロジェクトをコンサルタントとして任された場合、そのコンサルタントにとってのミッションはあくまでシステムを入れ替えと、その後に新システムをスムーズに稼働させることです。毎日8時間勤務することがミッションではありません。またシステム刷新となると、プロジェクトを行なう顧客の現状把握から始まり、現場の要望をヒアリング、導入システムの必要可否を選択、要件定義の取りまとめ等、フェーズによって行なう業務やその比重も異なります。

このようにプロジェクトを俯瞰すると、時期によってコンサルタントの必要工数が大きく変わることも往々にしてあるため、時間ではなく成果主義の方が理にかなったメリットのある考え方だと言えます。それが、高度プロフェッショナル制度という仕組みの根本的な考え方です。

この制度の適用対象外になる人たち

「高度プロフェッショナル」とか「高収入」という言葉を聞くと、お医者さん、つまり医師を想像してしまいますが、実は医師は適用対象外です。対象外である理由は、そもそもの高度プロフェッショナル制度の考え方にあります。

この制度では「専門知識が必要」であると同時に、「働いた時間と得た成果の関連性が高くない職種や業種」と定められています。例えば会社の受付業務で10時~17時で働いて報酬を得る場合、「時間の対価」として給与が支払われます。来客数が何名であれ、その人材は7時間、受付業務のために「自分の7時間をお金と交換」しているのです。そのため、勤務を予定していた“時間”をオーバーすれば、その時間の対価として“残業代”が支払われます。

この制度が適用される基準の一つとして「時間の縛りがあるかどうか」という点がありますが、医師は通常、診療時間などを自分では決められません。高度な知識を必要とする上、成果がすべてである職種のように感じますが、“出勤時間に自由がない”という点でこの法案の適用外となっているのです。

■コンサルタント業務で適用対象外となるもの

先述した高度プロフェッショナル制度について詳細に解説する厚生労働省の資料[4]によれば、コンサルタント業務といっても対象となるものとそうでないものがあります。この資料によると、高度プロフェッショナル制度の対象となる代表的な業務は「コンサルティング会社において行う顧客の海外事業展開に関する戦略企画の考案の業務」といったものだそうです。

逆に、制度の対象とならない業務例は以下となっています。

 ● 調査又は分析のみを行う業務
 ● 調査又は分析を行わず、助言のみを行う業務
 ● 専ら時間配分を顧客の都合に合わせざるを得ない相談業務
 ● 個人顧客を対象とする助言の業務
 ● 商品・サービスの営業・販売として行う業務
 ● 上席の指示やシフトに拘束され、働く時間帯の選択や時間配分に裁量が認められない形態でチームのメンバーとして行う業務
 ● サプライヤーが代理店に対して行う助言又は指導の業務

仮にコンサルティング会社にいたとしても、プロジェクトチームのメンバーとしてリーダーの指示に従うような場合は制度の対象外になるということです。

■研究開発業務で対象外となるもの

上記と同じ厚生労働省の資料には、研究業務についても対象とそうでないものについて記載があります。高度プロフェッショナル制度の対象となる代表的な業務は「メーカーにおいて行う要素技術の研究の業務」、「製薬企業において行う新薬の上市に向けた承認申請のための候補物質の探索や合成、絞り込みの業務」、「既存の技術等を組み合わせて応用することによって新たな価値を生み出す研究開発の業務」、「特許等の取得につながり得る研究開発の業務」だそうです。

逆に、制度の対象とならない業務例は以下となっています。

 ● 作業工程、作業手順等の日々のスケジュールが使用者からの指示により定められ、そのスケジュールに従わなければならない業務
 ● 既存の商品やサービスにとどまり、技術的改善を伴わない業務
 ● 既存の技術等の単なる組合せにとどまり、新たな価値を生み出すものではない業務
 ● 他社のシステムの単なる導入にとどまり、導入に当たり自らの研究開発による技術的改善を伴わない業務
 ● 専門的、科学的な知識、技術がなくても行い得る既存の生産工程の維持・改善の業務
 ● 完成品の検査や品質管理を行う業務
 ● 研究開発に関する権利取得に係る事務のみを行う業務
 ● 生産工程に従事する者に対する既知の技術の指導の業務
 ● 上席の研究員の指示に基づく実験材料の調達や実験準備の業務

労働時間ではなく、「成果ベース」で仕事をする人たちの働き方を応援するのが、高度プロフェッショナル制度です。「量より質」で収入を得るというプロフェッショナルとしての働き方を、国がちゃんと認知し始めたという感じがします。

昭和から平成になり、令和の今は働き方も生き方も多様性が広がっています。戦後に作られた従来の労働関連法だけでは対応しきれない時期に来ているとも言えるでしょう。制度の解釈やその人の技量によって、この制度への感じかたは意見が分かれるところかもしれません。


[1] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000148322.html
[2] https://www.kantei.go.jp/jp/headline/ichiokusoukatsuyaku/hatarakikata.html
[3] https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000428471.pdf
[4] https://jsite.mhlw.go.jp/shiga-roudoukyoku/content/contents/000428471.pdf

この記事の執筆者
データ・アプリケーション
Placulマーケティングチーム
経歴・実績
株式会社データ・アプリケーションは、日本を代表するEDIソフトウェアメーカーです。設立は1982年、以来EDIのリーディングカンパニーとして、企業間の取引を円滑に効率化するソリューションを提供しています。1991年からは日本の標準EDIの開発やSCM普及にも携わっており、日本のEDI/SCM発展に寄与してきました。現在は、EDI/SCM分野のみならず、企業が所有していデータの活用についてもビジネススコープを広げています。ハブとなるデータ基盤提供を始めとして、さまざまな角度から幅広く研究・分析を行っており、その提言を通じて企業のDX推進を後押ししています。

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