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デジタルワークとメンタルヘルスケア

デジタルワーク

2024年10月04日

自律のための高い目標設定

プラカル設計の背景には、「社員が自律するためには、挑戦的で明確な目標設定が重要」という考え方があります。社員が自らの目標に向かって努力し、達成感を得ることで、自己管理能力が向上し、組織全体のパフォーマンスも向上するという考え方です。そのため、日常の業務タスクと目標管理を連携させています。しかも、目標管理手法として、人事評価でよく利用されるKPIではなく、OKRを取り入れています。OKRについては別コラムで解説していますので、ここでは詳細には触れませんが、社員が自律するための最適手法と判断して取り入れています。

目標設定に関する長年の研究で、より困難な目標が大きな努力と成果を引き出すことが確認されていますし、高い目標は、個人と組織のモチベーションと成功を強力に促進することが広く認められているのも事実です。一方で、目標が適度にやりがいのあるものから、極度に困難なものに変化すると、モチベーションを低下させ、無謀なリスクを取るようになり、まともとは思えない行動に走るおそれがあることも分かっています。

プラカルが想定しているのは自身で設定する目標や、チームで目指す目標ですから、そもそも自分自身のやる気を失わせる設定になることは想像しにくいですが、これを「上司による目標設定」にしてしまうと話が少し変わってきます。

上司による「高い」目標設定と聞いてイメージできる働き方として、過重な業務量、無理なノルマ、未達時の叱咤といったあまり良くない言葉が挙げられます。厚生労働省の指針では、上司による限度を考えない高い目標設定のことを「過大な要求」と呼び、パワーハラスメントに該当するとしています。もちろんプラカルでは、ハラスメントになるような働き方を望んではいません。プラカルの目標設定を利用することで、自身の成長が感じられ、やる気になり、「メンタルヘルス」が良好な状態になることを望んでいます。

今回のコラムでは、職場やデジタルワークにおけるメンタルヘルスについて少し掘り下げてみます。

メンタルヘルス対策が企業のリスク対応に

メンタルヘルスとは、「メンタル=精神面」が「ヘルス=健全かどうか」ということです。職場において、社員のメンタルヘルスが良好というのは、本人がもっとも高いパフォーマンスを発揮できている状態。逆に言えば、メンタルヘルスが良好でなければ仕事の生産性が落ちるということになります。

企業内ではITなどの技術革新やデジタル化が進む一方、景気や市場の変化、競争の激化などにより省力化や合理化を迫られるなど、職場環境は急激に変化してきています。2020年の新型コロナウィルス感染症の流行で、職場の景色が一変した会社も多いです。

このような職場環境の変化は、社員の心身に多大な影響を及ぼし、大きな負担を掛ける場合があります。そしてITやデジタル化に適応できない、または逆にスマートフォンなどに依存してしまう「テクノストレス」といった、新しい心の問題も発生してきています。

組織のパフォーマンスを向上させるにはメンタルヘルスケアが必要だという認識は以前からあり、1987年には民間初の電話健康相談サービスが始まりました。本格的なメンタルヘルスケア普及のきっかけは、2000年のいわゆる電通事件最高裁判決により安全配慮義務が判例として確立されたことだといわれます。電通事件とは、社員を過重な業務でうつ病を発症させ自殺に至らしめたという事件です。こうした背景もあり、2008年には安全配慮義務が労働契約法に盛り込まれる等、メンタルヘルス対策が企業のリスク対応として注目されました。

高まるメンタルヘルスケア

企業と、そこで働く従業員を取り巻く環境は、決して楽な方向には行っておらず、どちらかといえば厳しいものになっている場合が多いようです。このような状況で、企業は意図せずに従業員を精神的に追い込んでしまうことも少なくありません。

厚生労働省と警察庁が公開している資料[1]によると、国内の自殺者数は1998年に初めて3万人を超え、以降14年間連続で3万人超となっています。それ以降は減少傾向ではありますが、それでも2023年にはまだ2万1837人が自らの命を絶っています。自殺の理由は、「健康問題」「経済・生活問題」が多いものの、「勤務問題」も上位に入っています。

増加する一方の自殺を防止するため、2004年8月、厚生労働省は1カ月100時間を超える残業をした労働者を対象に、医師による面接・指導を受けさせる制度を設けて健康状態を把握するよう企業に義務づける方針を決定しました。これは、従業員がリストラによる人員不足など、さまざまな理由から長時間労働を強いられた場合、うつ病などの精神疾患や脳・心臓疾患による過労死などに陥る可能性があることを厚生労働省が認めたからです。

このように、従業員が業務を遂行するに際して、その健康状態に留意することは企業にとっても避けられない事態となっています。これは、必ずしも長時間労働に限ったことではなく、従業員のあらゆる業務の遂行に際して、従業員がメンタルヘルス不全に陥り、病気になったり遅刻や欠勤が増えたりすることを防ぐ必要があることを意味しています。経営者や管理者は、従業員の精神の健康を保持・増進していくメンタルヘルスケアを軽視、または無視すれば、結局は従業員の仕事の能力が低下し、効率が悪くなってしまうことを理解しなければいけません。

職場における心の健康づくり

厚生労働省と独立行政法人労働者健康安全機構は『職場における心の健康づくり』という指針を公開[2]しています。2023~2028年の5年間をかけて取り組んでいる第14次労働災害防止計画[3]の重点施策のうち、メンタルヘルス対策のことをまとめた指針です。この第14次労働災害防止計画では、メンタルヘルス対策の推進目標として「メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場の割合を80%以上とする」という具体的な数値を掲げています。

『職場における心の健康づくり』の調査結果によれば、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所の割合は2021年度で59.2%。これを事業所規模別に見ると、従業員50人を超えるすべて規模の事業所ではメンタルヘルスケアに取り組んでいる割合が9割を超えています。その取り組み内容で最も多いのが「ストレスチェックの実施」(65.2%)。次いで「職場環境等の評価及び改善」(54.7%)となっています。

職場におけるメンタルヘルス不全にはいろいろな種類がありますが、その多くは「うつ病」に分類できます。うつ病は「心の風邪」ともいわれており、誰にでもかかるリスクがある病気です。例えば、「失敗」「転勤」「対人関係のトラブル」など、自分が望まない状況に置かれたときは、誰でも気分が優れないのは当然。うつ状態になるのもうなずけます。

実は、「結婚」「昇進」「プロジェクトの完遂」など、本来嬉しいはずの出来事が、本人に思った以上の負荷となっていて、結果としてうつ状態になってしまうことがあります。「マリッジブルー」という言葉を聞いたことがありませんか? 大きな仕事をやり遂げた後に燃え尽きてしまって、うつ状態になる「バーンアウト症候群」というのもあります。

うつ病は性格的に「真面目な人」「几帳面な人」「周囲の人に信頼されているような人」「つい仕事を抱え込みすぎてしまう人」などに多いと言われます。メンタルヘルス不全の代表である「うつ病」は精神が疲労を起こしている状態であり、「精神異常」や「性格異常」とは異なり、適切な治療を続ければ完治するということを理解する必要があります。

会社としてのメンタルヘルスケア

メンタルヘルスに関係するマスコミ報道は、多くが「過労死」「過労自殺」のものです。しかも優れた経営で知られた有名な大組織でおきています。例えば、大手広告代理店、大手スーパーマーケット、大手居酒屋チェーン、大手自動車、大手放送事業者など、インターネット検索で次々に出てきます。

これらの大組織がメンタルヘルスケアに無関心なのかと言えば、恐らくそうではありません。人事部門にはメンタルヘルスケア担当がいるでしょうし、20年以上前から社内研修をやっているはずです。仮に、記録に残らない異常な残業時間があったとしても、社内では知っている人はいるはずです。

会社としてのメンタルヘルスケアをやる場合には、身の丈に応じた方法で、実効性のある運用を目指さないと無意味なものになってしまいます。実効性のあるメンタルヘルスケアためのポイントを3つ挙げておきます。

■メンタルヘルス管理委員会の体制をつくる

少し会社が大きくなると、組織全体として従業員のメンタルヘルスを保持・増進することも必要になります。社内に人事担当者などを含むメンタルヘルス管理に関する組織をつくり、「事前ケア」を行ったり、外部のメンタルヘルスケアサービスを行う企業に管理を委託するなど、従業員がなるべくメンタルヘルス不全に陥らないための体制を作ります。

メンタルヘルスの事前ケアとは、「管理者および従業員への教育」「実態の調査」「利用しやすい相談体制」「メンタルヘルスケアサービスを専門に行う企業に管理を委託する」などを指します。

実際にメンタルヘルス不全に陥った従業員が出た場合には、「速やかで適切な対処」「復職への配慮」「適正な配置への支援」などが必要になります。復職の時期に関しては、専門家の意見を前提に、本人の意思を尊重して決めます。そして、場合によっては、一定期間ほかの仕事につけるなどの配慮をします。

従業員30名程度の小さな会社でも、役員を中心としたメンタルヘルス管理委員会をつくり、産業医と契約し、毎月の委員会の中で、事前ケアの内容の決定や情報共有を行うことで状況を大きく改善した例があります。

■人事措置はメンタルヘルスに影響する

人事考課や昇給、昇格、人事異動などの人事措置は、従業員のメンタルヘルスに間違いなく影響を与えます。個人の業績や適性を、公正、適格に把握し、バランスのよい人事措置が望まれますが、何より「本人の納得」が重要と言えます。

また、従業員を配置転換した場合、その従業員が十分な技術や対応能力を習得していなかったために、メンタルヘルス不全に陥ることもあります。そのため、普段から従業員の能力、技術向上、適応力拡大を目指し、教育・研修の機会を設けることも必要です。スキル向上とメンタルヘルスケアの両方の目的があると思っていいかもしれません。

■個人情報の守秘を忘れない

メンタルヘルスケアは、個人のプライバシーの守秘を前提として成り立つ活動です。個人情報が他に漏洩するようでは、従業員からの信用が低下し、得られる情報が少なくなり、結果として実効のあるメンタルヘルスケアの推進は困難になります。

例えば、メンタルヘルス不全に陥った経験のある者が配置転換になる場合、就業管理上必要な事情を職場の上司や同僚に伝えておく必要があるかもしれません。しかし、その場合でも、本人の了解を得て、プライバシーの保護を十分配慮することが重要です。

オンラインサービスの活用

リモート職場で働くデジタルワーク環境の従業員は、メンタルヘルスケアに関係したオンラインサービスをフル活用すると良いでしょう。

「労働安全衛生法」の改正により、2015年12月以降、50人以上の労働者がいる事業所でストレスチェック制度の実施が義務づけられました。それを機にインターネットを介してオンラインでストレスチェックできる仕組みが色々でてきて、有償・無償のサービスが提供されています。このコラム執筆時点で国内には約40のストレスチェックのオンラインサービスがありました。有償であってもひとり数百円の利用料金です。

もちろん、メンタルヘルスケアに関連するオンラインセミナーや研修もいろいろあります。ストレスチェック後に自身の状態を深く理解する助けになるはずです。また、オンラインで産業医や臨床心理士などの専門家と相談できるサービスや、オンラインで治療にまで乗り出したサービスもあります。

厚生労働省には『心の健康』というポータルサイトが設置[4]されており、ここから更に目的別の総合サイトに誘導されるようになっています。代表的な以下の2つについて簡単にご紹介しておきましょう。

■こころの情報サイト[5]

こころの不調・病気に関する情報をまとめた総合情報サイト。病気や症状の説明や、医療機関、相談窓口、各種支援サービスについての紹介など、治療や生活に役立つ情報を分かりやすく提供しています。

■こころもメンテしよう(10代20代のサポート)[6]

10代、20代の方向けのメンタルヘルス情報サイト。ゆううつな気分、やる気がなくなる、不安な思いなど、こころのSOSサインに気づいたときにどうすればいいのか、など役立つ情報を分かりやすく紹介しています。ご家族や、教職員の方々向けのページもあります。

働いていて、メンタルヘルスケアと無縁でいられる人はまずいないでしょう。不調を感じたときは、できるだけ正確に状況を捉え、デジタル化されたオンラインサービスを活用することで最短の対処を探し、最終的には必ず『専門家』に相談しましょう。


[1] https://www.npa.go.jp/safetylife/seianki/jisatsu/R06/R5jisatsunojoukyou.pdf
[2] https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
[3] https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001116255.pdf
[4] https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/shougaishahukushi/kokoro/index.html
[5] https://kokoro.ncnp.go.jp/
[6] https://www.mhlw.go.jp/kokoro/youth/

この記事の執筆者
データ・アプリケーション
Placulマーケティングチーム
経歴・実績
株式会社データ・アプリケーションは、日本を代表するEDIソフトウェアメーカーです。設立は1982年、以来EDIのリーディングカンパニーとして、企業間の取引を円滑に効率化するソリューションを提供しています。1991年からは日本の標準EDIの開発やSCM普及にも携わっており、日本のEDI/SCM発展に寄与してきました。現在は、EDI/SCM分野のみならず、企業が所有していデータの活用についてもビジネススコープを広げています。ハブとなるデータ基盤提供を始めとして、さまざまな角度から幅広く研究・分析を行っており、その提言を通じて企業のDX推進を後押ししています。

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