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デジタル化は「働く人が最優先」で設計したい

デジタルワーク

2024年09月26日

相手が人間だということを忘れない

プラカル(Placul)はDALが定義する「デジタルワーク:Digital Work」実現のためのコラボレーションプラットフォームです。このように書くと、IT業界にありがちな3文字略語とカタカナばかりで、人間臭さを微塵も感じないというひともいらっしゃるでしょう。

ICT(情報通信技術)業界は、いつもバズワードを提供する業界です。「新しい概念」を提案したいのでしょうが、カッコ良くてそれっぽい雰囲気の言葉が出てきては消えることの繰り返しに見えます。似たようなことを違う表現で言っているに過ぎないこともよくあります。

例えば、今では電化製品に「AI(人工知能)」を搭載し、色々なことをお任せするのが大流行していますが、約30年前には「ファジィ」という言葉で、今でいうAIに注目が集まったことがあります。お任せ機能を搭載したファジィ洗濯機やファジィ掃除機などが登場し、なんと1990年の新語・流行語大賞では「ファジィ」が大賞を取っています。同じ頃に「ニューロ」という言葉も登場し、ニューロ・ファジィ機能搭載の電化製品も色々あった。今で言うなら、機械学習+深層学習のAI家電といったところでしょうか。

直近のバズワードはChatGPTに代表される「生成AI」で、ここ数年のバズワードの最右翼は多分「DX」であろうと思います。DXはデジタル・トランスフォーメーション、すなわち「デジタル変革」と呼ばれる概念です。企業にとっての最優先課題と言われてはいるものの、そもそも「概念」なので、何がDXなのかの具体的なイメージは会社によってバラバラです。単純なデジタル化をわざわざDXと呼ぶ会社もあれば、「デジタル化による劇的なビジネスモデル変革」をDXとしている会社もあるようです。

デジタル化による劇的なビジネスモデル変革でよく引き合いに出されるのは、ストリーミング配信会社のネットフリックス。この会社は、もともとDVDレンタル事業をやっていましたが、ストリーミング技術を活用してオンラインによる配信サービスを開始し、映画やドラマなどのコンテンツを家に居ながらにして返却期限なしで視聴できるようにしました。この時点では単にデジタル化を実行しただけでした。

ネットフリックスの「劇的な変革」は、コンテンツ配信者からオリジナルコンテンツ製作者への大転換です。顧客のデジタルデータを分析し、顧客が望むストーリー展開、配役などヒットの要素を突き止めたうえで、確実に当たるコンテンツを自ら製作、配信し、会員を巻き取る作戦に打って出たことが「劇的なビジネスモデル変革」となったのです。デジタル化の先には顧客(人間)がいて、そこには好きなストーリーや配役といった、いかにも人間臭いものがあることに気付いたという点が「劇的な変革」をもたらしたとも言えます。

どの会社もネットフリックスのような「変革」を起こしたいと考えるのでしょうが、現実には昔作ったWebページをスマートフォンの画面対応にするとか、電話と紙の資料中心の営業活動を電子メールやタブレット端末に置き換えることが最初のデジタル化への取組みだというのが実情でしょう。

弊社は「デジタルワーク」について、できるだけ人間中心に考え、働く人々の日常的なちょっとした人間臭い行動をデジタルの世界に反映できるように設計すべきだと考えています。

例えばプラカルでは、コメントを送る際に、それが連絡や報告なのか、質問や提案なのか感謝や期待なのかを設定するようになっています。これはオフィスで隣席の同僚に「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…」と言って話し始める行動をデジタル化したものです。また、他の人のコメントに対してワンクリックで「いいね!」できることや、思いついたことをサッとメモする場所をつくることで、日常的なちょっとした人間臭い行動をデジタルの世界に持っていけるように設計しています。

デジタル化と人間の素直な感情を考える

ここ数年、ビジネスの現場でも日常生活でもデジタル化の進展に遭遇するシーンがたくさんあります。普段体験するデジタル化と、それに対する人間の素直な感情などを2つの例で考えてみましょう。

ひとつ目は「飲食店での注文」です。

まず、人間臭さの典型として昔ながらの「そば屋」での注文を考えてみます。そば屋に入ると「いらっしゃいませ!」と元気な声で迎えられます。注文のメニューを頼むと「ざるそば1まーい」と奥に向かって注文を通してくれます。最初の来店歓迎の声によって、店の者は全員が「お客様が来た」ことを知らされます。これに続く注文メニューの「ざるそば1まーい」は、実は“注文内容の確認復唱”の役割と、奥の板前に対する明確な“生産指示”にもなっていて、奥の板前からは「ざるそば1枚ね」という“生産開始”の返事がきます。お客様は、注文の確認、生産指示、生産開始をリアルタイムに目と耳で確認することになり、安心して待っていられる。これが典型的な人間臭い注文と人の感情です。

飲食業界でデジタル化を積極的に進めているのはファミリーレストランでしょう。ファミレス業界では1990年代から押しボタン式の卓上送信機で店員を呼出し、ハンディターミナルに店員が注文入力するという初期のデジタル化が始まります。ところが、混雑時には呼び出したのに店員が来ないとか、注文の復唱を省くこともあって、「大丈夫なのかな」という不安があったといいます。そば屋のアナログのほうがよほど安心できるという状態でした。

ところが、ファミレス業界のデジタル化はどんどん進化し、入店時の受付システムで待ち時間の目安が分かり、卓上のスマートデバイスや、自分のスマートフォンを使って即時に注文でき、配膳もロボットが担当するようになりました。注文してまだ届いていないメニューや今まで注文した合計金額もすぐに分かります。デジタル化により、ファミリーレストランのお客様がやりたいこと、知りたいことが即時実現するようになりました。人間臭さはありませんが、「お客様最優先で設計したデジタル化」を肌で感じることができ、アナログより安心できるようになりました。

ふたつ目は「会社の受付」です。

経営の合理化や人件費圧縮の余波を受けて、会社の受付は受付嬢から「受付タッチパネル」に代わりつつあります。受付のデジタル化です。実際にそういった受付の前で観察していると、来客の中には、呼び出す相手を調べるのに手間取る人、通りがかりの社員に声をかける人、せっかくの案内タッチパネルを使わずに携帯電話を使って来訪の旨を伝える人など、デジタル化された受付を使わない人が案外多いことが分かります。

無人の受付システムで対応するのがいけないというわけではありませんが、現状のシステムの多くは「お客様最優先で設計したデジタル化」には程遠い印象があります。受付は「企業の顔」といわれます。よくご来社されるお客様の顔を記憶し、そのお客様に特化した対応は、今のところデジタル化された仕組みより受付嬢が勝っているようです。

ファミレスの注文と会社の受付のデジタル化は、どちらも最初は人件費の圧縮を優先して始まったものです。「コスト削減最優先で設計したデジタル化」ともいえます。これを「お客様最優先」すなわち「人が最優先」で考え直してみると、使う人間が安心して、快適に利用できるデジタル化が実現するでしょう。

デジタル化は人との融合が基本

先述の通り、弊社は「デジタルワーク」について、できるだけ人間中心に考え、働く人々の日常的なちょっとした人間臭い行動をデジタルの世界に反映できるように設計すべきだと考えています。

仕事の処理スピードはどんどん速くすることを求められています。外回りの営業担当者は、いちいち会社に電話をかけて在庫を確認しなくても、手元にあるスマートフォンなどを使い、外出先から直接アクセスして在庫確認します。これは営業業務のデジタル化の典型的な例といえます。しかしながら、デジタル化された仕組みを使って在庫情報を確認することが営業の仕事ではありません。これは「本来の営業活動」の補助的業務にすぎません。営業の目的は、売ることと、次の販売機会を創出することです。

では、販売機会の創出をデジタル化で実現できるのでしょうか。販売機会創出のためには人間同士のコミュニケーションが必要なはずですが、その部分をデジタル化できるのかを考えてみましょう。

前述の「そば屋」「ファミレス」「受付タッチパネル」の話は、実は人間と人間のアナログなコミュニケーション部分をデジタル化するとどうなるかという実例です。人間の本質を踏まえ、「人を最優先にした設計でデジタル化」するか否かで結果は異なってきます。

営業の仕事の本質である「売ること」と「次の販売機会を創出すること」をデジタル化したものとして、SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)というツールが使われます。これが登場する以前には勘や経験、属人的な特技などで販売機会創出していたのが実情ですから、デジタル化によりこの部分を代替できれば、営業活動の「変革」といえそうです。

SFAやCRMでは、「データを収集・分析し、分析結果で見込み客と判定した者に電子メールを送る営業活動」がよく見られる光景となっています。営業部門におけるデータ収集・分析は、顧客情報の収集や整理、あるいは日程管理の煩わしさを解消し、営業の実質稼働率を高めるというのが目的。コミュニケーション手法として電子メールを使って営業をすることは悪いことではありませんし、大したコストもかからないことから効率的な営業活動といえます。電子メールで見込み客が興味を持ったあと、AIチャットボットで24時間いつでも質問に回答するという仕組みを連携することも今では日常の光景です。

しかし、実際の営業部門では、この方法では限界があることも分かっています。SFAやCRMから自動配信された電子メールとAIチャットボットで営業成績が上がり続けるなら、こんなに楽なことはありませんが、こうしたデジタルツールが万能なわけではないのです。例えば、「高度で複雑な案件の提案」や「使用方法が難しい商品やサービスの提案」といった、いわゆる『説明商材』にはほとんど通用しないのがデジタルツールでの営業活動の現状です。

営業活動が「販売機会を創造すること」だとすると、例えば次のような営業活動をデジタルツールで実行できそうかどうかを考えてみてください。

● 見込み客の生の声を聞いて、その裏にある真のニーズを探り当てること
● 顧客とのつながりを広げるため、別のキーマンの紹介を取り付けること

これらは人と人とのコミュニケーションを大切にした営業活動で、なかなかデジタル化できない部分です。デジタルツールを活用する場合も、人間臭いアナログなコミュニケーションと併用しながら活動全体を合理的に設計するのが望ましいといえるでしょう。

働く人が最優先

冒頭に述べた今現在のバズワードである「デジタル変革」は、経営者向けセミナーも多く、業界によっては最重要の経営課題になっていると聞きます。確かにデジタル化は、会社をもっと良いものにしようとするさまざまなに活動に大きく寄与するものに間違いありません。特に「デジタル変革」に期待されているのは、単なる効率化といった話ではなく、「破壊的な効率化」「劇的なビジネスモデル変革」「革新的な顧客体験」といった、今までにない世界を、デジタルによって実現しようということです。

しかし、これまでアナログだったものをデジタル化して「変革」することが、これまでのアナログの長所を否定するものではないことはしっかりと理解しておきたいものです。特に相手が人間の場合はそうであるということを今回のコラムではお伝えしたかったのです。

弊社はこれまで『データをつなぐ』ことと『会社をつなぐ』ことで「デジタルワーク」を実現するために尽力してきました。この場合の主人公は企業のデジタルデータです。一方、プラカルは『人をつなぐ』ことと『ナレッジをつなぐ』ためのプラットフォームであり、主人公は「そこで働く人」です。相手が人間であることを忘れず、日常のちょっとした人間らしいアナログな部分を活かすようにしたいと考えています。 ビジネスの世界においては、現時点のデジタル技術では到底処理が不可能な情報もありますし、アナログであることが大きな意味を持っていることが多々あります。リモートワークやハイブリッドワークといった職場のデジタル化を考える上では、そこで働く人に想いを寄せ、デジタルとアナログ双方のよい部分を融合することが重要であると考えています。

この記事の執筆者
データ・アプリケーション
Placulマーケティングチーム
経歴・実績
株式会社データ・アプリケーションは、日本を代表するEDIソフトウェアメーカーです。設立は1982年、以来EDIのリーディングカンパニーとして、企業間の取引を円滑に効率化するソリューションを提供しています。1991年からは日本の標準EDIの開発やSCM普及にも携わっており、日本のEDI/SCM発展に寄与してきました。現在は、EDI/SCM分野のみならず、企業が所有していデータの活用についてもビジネススコープを広げています。ハブとなるデータ基盤提供を始めとして、さまざまな角度から幅広く研究・分析を行っており、その提言を通じて企業のDX推進を後押ししています。

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