2024年09月06日
2024年5月、弊社は中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)を公開しました[1]。この経営計画では主要な経営指標や事業戦略について今後3年間の方針を定めています。こうした方針が最終的目指して将来像やゴールを示すのが中期ビジョン。今回の中期経営計画では、中期ビジョンについて以下のように定めています。
個人と組織がともに成長し続けるDIGITAL WORKを実現
この中期ビジョンを実現するために、弊社は知識とアイデアや技術を結集し、製品やサービスとして世の中に出していきます。そのうちのひとつがプラカルなのです。つまり、プラカルは、個人と組織がともに成長するためのチームコラボレーションプラットフォームとして設計されました。
それでは、「個人と組織がともに成長する」とはいったいどういうことでしょうか。これについて、チームと個人の関係性に注目した日本企業におけるコラボレーションのあり方という観点と、エンゲージメントという経営手法の観点からみてみましょう。
厚生労働省所管の独立行政法人労働政策研究・研修機構は、労働に関する総合的な調査研究を実施し、その成果を広く提供しています。この機構が出している日本労働研究雑誌 2020年7月号(No.720)では、「チームワーク」が特集されています[2]。
ここに、「日本企業における協働のあり方と、チームと個人の関係性」について詳しく説明した同志社大学の太田肇教授の論文[3]が掲載されています。
この論文で太田教授は、「新型コロナウィルスへの感染対策として,在宅勤務などテレワークを導入する企業が一気に増加したが業務に支障があるという企業が多く、とくに大きな障害になっているのは日本企業特有の意思決定システムや仕事の進め方であり、根底には組織と個人、チームと個人の独特な関係性がある」と述べています。
つまり、職場のデジタル化の障害の根っこの問題として、日本人特有の組織と個人,チームと個人の独特の関係があるとしています。太田教授はさらに、「働き方改革」で問われたのは組織と個人、チームと個人の関係性だったといえるかもしれないとも述べています。
■インフラ型組織
太田教授は組織論の専門家ですので、この論文ではコロナ以後の組織そのものの役割やスタイルも大きく変化すると述べています。
これまでは組織が環境適応の主体であり,個人は組織の一員として行動していたが、今後は個人が主体的に市場・顧客,社会などの環境に適応するほうが有効に機能するだろう。その場合の組織の役割は,個人が環境に適応して成果をあげるために「場」を提供し,サポートすることに重点が置かれるだろう。これが太田教授の言う組織の変化です。このような組織を「インフラ型組織」(infrastructural organization)と呼ぶことができるとしています。
個人が主体であり組織がそれをバックアップする「インフラ型組織」の主な特徴として以下の5点を挙げています。
これら「インフラ型組織」の特徴は、プラカル設計上の考え方とかなり近いと言えます。チームコラボレーションにおける自律的管理、コミットメント(確約)ではなくOKR目標管理でのチームや個人が果敢に挑戦できる環境、アイデアやノウハウを共有することによる支援、業務タスクを可視化することによるオープンなコラボレーションの「場」を提供するなどがプラカルの大きな特徴なのです。
■異質性を基本にしたチームに有効な「自律的管理」
太田教授は次のような内容で論文を締めくくっています。
かつて日本企業はメンバーの「同質性を基本にしたチームワーク」を得意とし,それが高い生産性や国際競争力をもたらす一因にもなっていました。ところが技術革新や人材の多様化にともなってそのようなチームワークが通用しなくなり、メンバーの「異質性を基本にしたチームワーク」が求められるようになりました。
太田教授らの調査研究によれば、こうした新しいチームワークにおいては、個人が組織の一員となるスタイルより、個人をインフラとしての組織が支えるスタイルほうが有効で、特に専門職種ではこの傾向がみられます。「異質性を基本にしたチームワーク」が有効に機能するためには、組織(チーム)と個人の統合という枠組みまで再設計する必要があるのです。
弊社がプラカルを設計した背景には、従来の「組織的管理」から、今後は個々人の「自律的管理」をベースとしたチームコラボレーションを考えた経緯があります。このほうが「異質性を基本にしたチームワーク」に有効であると考えています。
「エンゲージメント」という言葉を人事部門などから聞いたことがあるかもしれません。エンゲージメントとは、「個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係」のことをいいます。その根底には「個人の成長や働きがいを高めることは、組織価値を高める」「組織の成長が個人の成長や働きがいを高める」という考え方があります。企業と従業員の結びつきが強い状態を指して「エンゲージメントが高い」と言われます。まさに「個人と組織がともに成長し続ける」状態といえます。
エンゲージメントが高い組織には、従業員一人ひとりが企業や組織を信頼し、自身と事業の成長に向けて意欲的に取り組むという特長があります。組織力が強まり、業績の向上が期待できることになります。
■ロイヤルティや従業員満足度との違い
数10年間から、組織と個人の関係を強化して業績を伸ばすといった経営手法はいくつかありました。特に有名な言葉としては、「ロイヤルティ(Loyalty)」と「従業員満足度(ES)」があります。ロイヤルティ(Loyalty)は、従業員の企業に対する忠実度を指します。従業員満足度(ES)は、従業員が待遇や環境、報酬に対してどれだけ満足しているかを示す指標です。
これらとエンゲージメントとの違いは、結びつきの方向性です。
ロイヤルティは、従業員が企業や組織に対して忠誠心を持って行動するという上下の関係性にあります。従業員満足度は、処遇や環境に対する評価であり、企業側の取り組みに応じて満足度が変わります。
これらに対して、エンゲージメントは、企業と従業員が双方向の関与によって結びつきを強めていく点が大きく異なっています。これをチームコラボレーションに置き換えると、個人の成長によってチームが発展し、チームの成長によって個人がさらに成長するというイメージでしょうか。
■エンゲージメントが注目される背景
エンゲージメントが人事領域で注目され始めたのは最近のことです。
背景のひとつは、日本でも人材の流動化が大きく進んだことです。終身雇用や年功序列といった従来の人事制度から成果主義型の報酬制度へと移行する企業の増加、副業解禁や情報技術の発展によるリモートワークの進化などの働き方の多様化の進展により、労働者側によりよい待遇や環境を求める動きが活発化し、人材の流動化が進んでいます。
若年層の早期離職率が上昇するなど人材不足も深刻化しており、人材の確保と育成を経営の最重要課題として挙げる企業が増えています。こうした背景から、組織が個人の成長を後押しし、長期的な業績向上を目指す人事施策の重要性が認識されるようになりました。そのキーワードとなるのがエンゲージメントです。
2つ目の背景は、エンゲージメントに関する調査が進んだことです。人材コンサルティングを行う株式会社リンクアンドモチベーションと慶應義塾大学の共同研究によると、エンゲージメントが高い組織は営業利益率および労働生産性にプラスの影響をもたらすことがわかりました。エンゲージメントの高い組織を実現できれば、人材は組織に定着し、企業の業績や生産性の向上が期待できます。
個人と企業、双方の成長に貢献するエンゲージメントは、人手不足・人材流出が課題となる現状において、重要な経営戦略のひとつになっています。
■エンゲージメントがもたらすメリット
『日本の人事部』という日本最大級の人事向けポータルサイト[4]が2023年3月に公開したエンゲージメントがもたらすメリットの調査結果[5]は下図のようになっています。
エンゲージメントが高まったことで得られた効果でもっとも多いのは「組織の活性化」で、エンゲージメントが「高い」「どちらかというと高い」と回答した企業の55%以上が回答しています。次に、「従業員モチベーションの向上(43.8%)」「業績の向上(39.8%)」「離職率の低下(定着率の向上・37.5%)」と続きます。
日本の人事部「人事白書2019」p.277より引用
最もメリットのある「組織の活性化」について、エンゲージメントの高い組織では、従業員の仕事に対する自発的な関与や熱意が見られると人事白書は述べています。従業員が職場の問題を自ら解決したり、積極的に意見を出したり、事業と自身の成長に向かって活発に動きがある組織風土を生み出します。
これはまさに、プラカル設計の背景にある「自律的管理」のことです。従業員の自律が組織(チーム)の活性化に貢献するというだろうという仮定が背景にあるのです。
2番目のメリットである「従業員のモチベーション向上」について人事白書では次のように書いています。「エンゲージメントは、従業員自身が何を期待されているかを認識し、かつ成長機会に接するなかで、組織に貢献できている実感がある状態で生まれます。エンゲージメントが高まると、従業員は自分の仕事と業績、顧客満足度のつながりを感じ、モチベーションが向上します。」
プラカルでは、個人やチームの業務タスクと、個人やチームのOKR目標を一括で管理することで、自身が何を期待されているかを認識し、成長機会を見出していきます。また、自分のノウハウやアイデアを公開することや、業務中のコメントに「いいね!」が付与されることで自分とチームと業績などのつながりを実感できるように設計されています。
さまざまな調査から、エンゲージメントが高い職場では、労働環境や給与などの労働条件に満足しているだけでなく、従業員が仕事に意欲を持ってやりがいを感じていることがわかっています。ただし、どういった状態を「エンゲージメントが高い」と評価するかは、企業によって異なります。
全ての職場に共通することとして、エンゲージメントを高めるには、個人の仕事の志向性に沿った環境や機会の提供を行う必要があります。価値観を共有・評価し、自分たちが何をしたいのか、どうなりたいのかを対話することが、エンゲージメントの高い組織を実現する上で非常に重要といわれています。具体的には、以下の4つの観点が必要になります。
・ビジョンへの共感
・やりがいの創出
・働きやすい職場づくり
・成長支援
「ビジョンへの共感」は、エンゲージメントを高める上で欠かせない要素です。ビジョンとは、企業が進むべき方向性を示すものです。ビジョンへの共感をうながすには、定期的に従業員に対して情報を発信し続ける取り組みが必要です。
これはチームコラボレーションでも同じことが言えます。チームが今どこに向かっていて、現状はどこにいて、自分は何をすれば良いのか。これが常に見える状態でいることがエンゲージメントの高いチームを実現するには不可欠でしょう。プラカルはこれを実現するための機能を実装しています。
エンゲージメントを高めるには、仕事の「やりがいを創出」する仕組み作りも重要なポイントになります。長期的な視点で従業員にやりがいを感じてもらうには、それぞれの得意領域や意向を見極め、それぞれの「持ち味」を職場で活用する取り組みが重要です。
能力や経験値に応じた適材適所」推進や、若手への思い切った権限移譲というのもありますが、日常の中で挑戦する機会を与えることも非常に重要です。プラカルは、チームコラボレーションプラットフォームの中に「挑戦する機会」を実現するための機能を入れ込んでいます。
組織へのコミットメントに大きく影響するのが、「働きやすい環境」です。仕事への意欲を継続するには、心身ともに健やかな状態を保つ必要があります。心の面では、社内のコミュニケーションが活発化するほど、組織への愛着心が生まれやすくなります。プラカルが実装する仕組みは、散漫なコミュニケーションを防ぎ、優先度が分かる状態で通知を受け取ることができるため、ストレスを大きく下げることができます。
ここまで、プラカルに紐づける内容を中心に書いてきましたが、職務への満足度を高め、「ワーク・エンゲージメント(仕事に対する熱意)」を生み出すには、それぞれの従業員が成長を実感できる仕組み作りに取り組む必要があります。個人のスキルアップやキャリア形成に役立つ研修を実施するなど、それぞれの成長を支援することも大事です。
また、エンゲージメントの高い組織作りでは、上司のコミュニケーション力も重要です。
マネジメント力やリーダーシップの強化は、組織のコミュニケーションを円滑にし、エンゲージメントの高い組織作りに役立ちます。
[1] https://ssl4.eir-parts.net/doc/3848/tdnet/2436908/00.pdf
[2] https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/07/index.html
[3] https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2020/07/pdf/050-058.pdf
[4] https://jinjibu.jp/
[5] https://jinjibu.jp/keyword/detl/1592/
データ・アプリケーション Placulマーケティングチーム |
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経歴・実績 株式会社データ・アプリケーションは、日本を代表するEDIソフトウェアメーカーです。設立は1982年、以来EDIのリーディングカンパニーとして、企業間の取引を円滑に効率化するソリューションを提供しています。1991年からは日本の標準EDIの開発やSCM普及にも携わっており、日本のEDI/SCM発展に寄与してきました。現在は、EDI/SCM分野のみならず、企業が所有していデータの活用についてもビジネススコープを広げています。ハブとなるデータ基盤提供を始めとして、さまざまな角度から幅広く研究・分析を行っており、その提言を通じて企業のDX推進を後押ししています。 |